秋田県内ではクマによる被害が相次いでいます。クマの被害を防ぐためにできることは何か。クマの生息域から最近の傾向を考えます。
県が発表している2007年と2025年3月の県内のクマの生息域を表した図をみると、2007年は出没・捕獲地点が内陸に集中している上に、割合は県全体の半分ほど。つまり私たちの生活圏である市街地や沿岸部にクマはほとんどいなかったといえます。
ところが2025年3月には、県内のほとんどの場所でクマの姿が確認されていて「いつでも、どこでも、誰でもクマに遭遇する恐れがある」という呼びかけを裏付けています。
なぜクマの生息域が拡大し続けているのか。クマの生態などを研究する秋田県立大学の星崎和彦教授に聞きました。
星崎教授は「クマもご飯がなかったり、寝る場所がなかったりすれば、人間社会の食べ物をこわごわ取りに行っている。それは以前より、人間社会に行くと押し返されたり、捕まえられたり、嫌がらせをされたり、ということを長い間、歴史の中でやってきた。ところが近年は、人間側がクマを押し返すパワーが、社会が縮小してきた現状において足りていない。なので、そのせめぎ合いの境界がだいぶ人間側に、人間社会の内側に入り込んでいる状況」と話します。
また、「本来ツキノワグマは繊細で、臆病であり、できるだけ人間に会いたくない動物」だといいますが、現在の出没傾向をみるとそうとは言い切れません。
県が発表している1990年代から2024年までの県内で発生したクマによる人身被害のまとめによりますと、2005年までは山林での被害が約8割を占めていて、“人里”での被害はまれでした。
これが2020年代になると逆転し、人の生活圏での被害が約9割となっています。
例年秋は、冬眠前のクマが餌を探し求める時期で、出没や人身被害が多い傾向にあります。ここ数年、さらなる変化がみられるのが、本来ならばクマが冬眠しているはずの冬の出没です。
星崎教授は「冬眠に入らないクマは、何らかの事情で冬眠することができない。街中では寝なくても食べ物が食べられたり、街中では山ほど寒くない・気温が低くないという条件の問題かも知れない。おなかが満たされていないため、冬を乗り越えることができない。あるいは、そもそも冬眠する場所が山の中で見つけられていないなど、いくつかの可能性が考えられる」と話します。
また、冬眠したとしても、その場所に変化が起きています。
星崎教授は「少しでも隙間があったら入ってしまうので、そこで一冬過ごせてしまう条件の環境が、秋田市ぐらいでもたくさんあると思う。例えば物置と物置の陰とか、住宅と住宅のガスメーターがあるような間。そのような少し風が当たらないような場所があればクマは冬眠できる。きちんと穴に閉じこもることをしなくても冬眠する。多くの人身被害は、クマが人と遭遇してしまったときの自己防衛で起きている」と指摘します。
現状で私たちができることについて、星崎教授は「古来に習うと、クマと人間の境界線をクマ側に押し返す対策が必要。ただし押し返すことは、クマと人間の境界に住んでいる人の集落がどんどん縮小し、高齢化している現状では簡単ではないため、そこを改善しなければいけない」と話します。
そして「まずクマがどういう生き物なのかを正しく理解しておくことが必要で、その上で、どのようなことならやっても大丈夫とか、何をしなければいけないのかを社会全体で考えないと、どんどん街中にクマが現れて、どうしたらいいか分からない人たちの近くにクマが来る。そういう状況がこのまま加速しかねない」と危惧します。
近年は、産学官が一体となって様々な対策を進めていますが、「いつでも、どこでも、誰でもクマに遭遇する恐れがある」という環境は変わっていないと言わざるを得えません。
09月30日(火)17:30