故意に危険・悪質な車の運転を行い、その結果、人を死なせたりけがをさせたりした場合に適用される「危険運転致死傷罪」。かつては交通事故の刑罰が軽く、厳罰化を求める国民の声を受けて2001年に設けられました。最高刑は拘禁刑20年で、過失運転致死傷罪の7年より重くなっています。
この危険運転致死傷罪に「数値基準」を追加した、改正自動車運転処罰法が7月21日に施行されました。
これまでの適用基準は、例えば飲酒では「アルコールの影響で正常な運転が困難な状態」、また速度の基準は「重大な交通の危険を回避するのが著しく困難な高速度」といった文章で示されていました。
ただ、こうした内容は曖昧で、どのように立証するのか判断が難しい、といった議論も交わされてきました。
そのため今回、実態に合わせてより厳正な対処ができるよう、数値基準が設けられました。
2つのポイントのうち、1つ目は「飲酒運転」です。呼気1リットル中のアルコール濃度が0.5ミリグラム以上であれば、一律で危険運転致死傷罪の対象となります。
また、速度については、最高速度が時速60キロ以下の道路でプラス50キロ以上。最高速度が時速60キロを超える道路では、プラス60キロ以上の速度が適用の対象となります。例えば、最高速度が60キロの国道なら、110キロ以上が危険運転致死傷罪の適用対象になります。
今回の改正は、遺族などからの訴えを踏まえて実現しました。
2021年2月、大分市で発生した死亡事故です。50代の男性が運転する車が、県道を時速194キロで暴走してきた車と衝突し、男性は亡くなりました。暴走してきた車は、県道の最高速度60キロを134キロ上回っていました。
一審の福岡地裁は「ハンドルやブレーキの操作のわずかなミスによって、事故を発生させる危険性があった」として、「進行を制御することが困難な高速度だった」と認定し、「危険運転致死罪」成立を判断。被告に懲役8年の実刑判決を言い渡しました。
しかし、控訴審の福岡高裁は一転、「制御が困難な高速度の立証がなされていない」などとして、一審判決を破棄して過失運転致死罪を適用。懲役4年6カ月を言い渡しました。検察はこれを不服として、最高裁へ上告しています。
危険運転致死傷罪の適用基準をめぐる議論の象徴ともなったこの事故。今回の法改正が実現したことについて、遺族が思いを述べました。
遺族:
「ようやくこの時が来て、非常に大きな前進であるし、今後、私たちのように何年間も苦しみ続ける遺族は少なくなる」
「一般市民の感覚と司法がかけ離れている」という遺族の声が、法改正につながったのです。
危険運転致死傷罪の適用をめぐっては、秋田県内でも判断が注目された事故がありました。
2025年2月、北秋田市で自転車で新聞配達をしていた女性が、車にはねられて亡くなる死亡ひき逃げ事件が起きました。普通乗用車を運転していた男は、過失運転致死の疑いで逮捕されました。
その後、検察は「アルコールの影響で正常な運転が困難なまま、女性を車ではねて死なせた」として、危険運転致死罪などで起訴しました。
危険運転致死罪の成立が争点となった裁判では、遺族が「厳しい実刑判決を望みます」と訴えました。
秋田地裁は、被告が当時、呼気1リットル中、約0.44~0.55ミリグラムという高い濃度のアルコールを保有していたことに加え、駐車場の場所を間違うなど正常な運転が困難だったとして、危険運転致死罪が成立すると認定し、懲役10年の実刑判決を言い渡しています。
今回の法改正に対しては、交通捜査の現場も前向きに受け止めているようです。
秋田県警察本部交通企画課・佐藤健司次長:
「これまで、酒酔い運転により交通事故を起こす危険運転の認定について、酒に酔った状態を確認しなければいけなかったが、プラスして今回の『呼気中に0.5ミリグラム以上のアルコール』が確認された時点で、酒酔い運転とそれに伴う交通事故で危険運転の認定になるので、より捜査が分かりやすく効率的になることは間違いない」
法改正は一歩前進ですが、問われるのはドライバーの安全運転への意識です。重大事故を防ぐために何が必要なのか、改めて考えていく必要がありそうです。
07月22日(水)19:00